私の便所物語

ワラタ2ッキ

87 名前: 水先案名無い人 投稿日: 03/10/11 05:32 id:Hw21rYPh
終電間際、ほろ酔いの私は猛烈な便意に襲われて駅の便所へかけこんだ。
普段なら紙があるか確認するんだが、酔いも手伝ってか、入るなり下ろしたズボンにチップする勢いで排便した。
ふう、危ないところであった。と一息ついてから、初めて紙がないことに気が付いた。
たいていこういう時は前の人が使い残したティッシュが有って事なきを得るのだが、この時は運悪くそれも無かった。
所持品の確認をしてみる。ボールペン、フロッピー、はさみ、スティックのり、万札が2枚、小銭・・・
だめだ。ケツは拭けそうに無い。私はケツを出したまま考えた。
万札で拭くのも勿体無い。そうだ、スティックのりで便を拭き取り、汚れた部分をはさみで切り取ってはどうか。
・・・いやだめだ、デリケートな菊門にのりをくっつけたまま帰ったらかぶれてしまいそうだし、そもそもあんな棒状の物で拭き取れるのか?私はスティックのりのキャップを外し、手の甲で感触を確かめてみた。
これはマズイ。さもすれば女の舌が這っているかのような感触だ。こんな物を菊門に使用したら余計な紙が必要になってしまう。
とりあえず彼とはいい友達になれそうだ。
さらにケツを出したまま考えた。もうケツを出したまま10分近くが経過している。このままケツが乾燥するのを待つというのはどうか。
一瞬考えたが、あと5分もすれば終電だ。朝帰りをしようものなら女房に何を言われるかわかったもんじゃない。まさか「ケツを乾燥させてた」とは思うまい。
私は個室の中をケツ丸出しで散策してみた。そしてゴミ箱の中に空のティッシュ袋、なぜかナプキンを発見した。
ナプキンの布部分で拭けるかもしれない。が、しかし。経血が付いていないとはいえ、使用した痕跡がある。しかも男便所にだ。私の脳裏には変態オヤジが鼻息荒く装着している姿が浮かんでいる。・・・だめだ。ナプキンは却下だ。
あとはティッシュの空袋しかない。しかしこれは薄いビニール製で出来ており、少なくともケツを拭く為に作られたものではないので、便を拭き取るにはいささか頼りない。

私はケツを出したまま今年度上半期ベスト3にランクインする勢いで熟考した。
ふと、仕事でタイに滞在していた時の事を思い出した。
タイでは日本のような便所はなく、道端の草陰で用を足すのが普通なのだ。草陰といっても顔は往来から丸見えであるから、道を歩いているとうら若き女性が用を足しているのがわかってしまうというスカトロ大国なのだ。
なので、大便中に知り合いなどが通った時などは日本人の私には非常に気まずかった。
こちらはケツ丸出しで排便中なのに、「サワディ(こんにちわ)」などと笑顔で挨拶されてもちょっと困るものがある。
話がそれたが、タイではケツを拭くときに紙などは使わず、予めバケツに水をもって用を足し、終わったら指で拭いてその指を水で洗うとい方法が用いられている。
一見指に大便が付着するのが不潔のように感じるが、慣れてしまえば天然のウォシュレットのような物で、非常に清潔である。
予断だが、入国して1週間くらいの時に、林の中で用を足していたら20歳位の可愛い女性がいきなり近づいて来て、泡を食った事がある。向こうは親切にもバケツを持って来てくれたのだが、こっちにしたら生き恥である。ウンコしてんだから来るなよな。

さて、本題に入ろう。不幸中の幸いで、終電間際は人が少ない。
当然便所も然り。私がケツ丸出しになってからは人が入ってきた気配は無い。
帰国間際に滞在した村の村長さんに「お前はタイ語さえ喋れば誰も日本人とは思うまい」とまで言われた私だ。(実は今でも家でたまに「天然ウォシュレット」を使っている)手洗いまでこのまま行って事を済まし、ズボンを穿くのに20秒とかかるまい。よし決行だ!私は意を決して個室から出陣した。
頭の中では、私の決意の表情のアップ、そしてスローモーションで立ち上がり、今まさに戦場に向かい歩み始める。
映画の主人公の勇姿が浮かんでいた(実際はズボン押さえながら丸出しのケツを突き出してアヒルのように歩く中年男なのだが)。
何とか洗面台まで辿り着き、ズボンの片方の裾から右足を抜き、洗面台の上に乗せるという公共の場にあるまじき体勢になった

角度によっては便所の外から少し見えてしまうのだが、背に腹は変えられない。
目の前の鏡には焦燥と不安が入り混じったなんともいえない顔をした中年男のあられもない姿が映っている。
一物が洗面台にくっついて冷たい。挫けそうだ。
なんとか魂を奮い立たせてまず一拭き。よし、いい感じだ。あと2回もすれば完璧だろう。
十分終電に間に合う。嗚呼、手が震える。
菊門を変に刺激しないように落ち着いてさらに一拭き。あと1回だ。やっと家に帰れる。
その時。ケツの事しか頭になかった私の耳に不穏な音が聞こえた。あれは・・・バケツ!?
そう。その地下鉄の駅は利用者も少ない為、終電前に清掃員が最後のチェックに来たのだ。これはまずい。
こんな姿を見られたら末代までの恥。どんな親しい友人や、女房にさえ見せた事ないのに。
「しかたない、あと1回は諦めよう。早急にズボンをはいて作戦終了だ。まだ少し気持ち悪いけどこんな姿を他人に見られるよりはどんなにましだろう(この間0.1秒)」
ベストコンディションであれば、疾風の如き素早さでズボンをはき、何食わぬ顔をして便所から出るのに5秒もあれば十分だ。
しかし焦りからか足が引っかかり、うまくズボンがはけない。やばい!
切羽詰まった私は何を思ったか出来る限りドスの利いた声色で、
「なめてんのかてめえ!」「どうしてくれんだコラ!」
などと叫んでいた。
あたかも便所内は極道と絡まれている一般人の修羅場であるという事を清掃員にアピールしたのだ。
これで少しでも便所に入ってくるのを躊躇してくれば儲けものである。
相変わらずケツは出ていたが、精一杯の演技をしながらズボンをはいた。
この作戦は功を奏し、案の定バケツの音は便所の外で止まった。ナイスヘタレ!

演技する事に気持ちよくなって来た頃、またバケツの音が聞こえてきたが、ズボンをはくだけなら十分な時間稼ぎが出来た。
私はベルトを下に垂らし、右の靴と靴下を手に持ったまま悠然と戦場を後にした。
清掃員のおじさんは怪訝な顔をしていたが、もう関係ないもんね。
電車の中で靴下をはく時に周囲の視線が痛かったが、仕方がない。この飼いならされた羊達は戦場の厳しさを知らんのだ。
振り返って見ると、ものの15分位の出来事なのだが、普段何事にも動じないキャラで通っている私が大量の汗をかき、精神は疲弊しきっていて、まるで2日徹夜で仕事をしたかのような疲労感に襲われていた。

まあここまで長々と駄文を連ねて何が言いたかったかというと、地下鉄新板橋駅の便所の個室で黒の長財布を拾った人は直ちに届け出なさい。
私のです。