航海士の日常

航海士便り
航海士の日常を知るのに参考になりそう。

気になったところを一部抜粋。

遭難通信の98パーセントがイタズラ

船が不幸にも遭難し、人命の危険がある場合に発信するのが遭難通信です。あのタイタニック号事件で初めて使用された「SOS」遭難通信はあまりにも有名ですが、この遭難通信システムは交信範囲が狭いため、付近に船がいなければ助けを求めることができませんでした。その欠点を補うため、平成11年(1999年)に義務化されたのが「GMDSS」と呼ばれる新しい遭難通信システムです。人工衛星や中短波を利用するため、世界中どこにいても付近の船だけでなく最寄りの海岸局(海上保安庁など)に直接通信することができるのが特徴です。しかし一見優れた通信システムに見えますが船舶ID番号を変更して遭難通信が発信できる(すなわち発信者が特定できない)という大きな設計ミスがあるため、イタズラ発信が絶えず、なんと遭難通信の98パーセントがイタズラとなってしまいました。またGMDSS方式の導入により専任通信士の乗船が免除されたことで通信の秩序が乱れたこと、そして便宜上の船籍国(パナマリベリアなど)の罰則が比較的甘いということがイタズラに拍車をかけたとも言われています。98パーセントがイタズラということで毎日けたたましく鳴り響くアラームにどの船もウンザリ、遭難通信を受信しても「またかよ...」という気持ちで即刻停止して内容には見向きもしないというのが現状のようです。因みに某国の漁船団は目覚まし代わりに遭難通信アラームを利用しているという始末、また外国人船員はウサ晴らしに遭難通信を連打しているという有様です。完全に機能を失った現在の遭難通信システム、緊急時には衛星電話で船会社や信頼ある国(先進国)の沿岸警備隊に直接連絡した方が確実という悲惨な状況となってしまいました。ところで最近、携帯電話からの「イタズラ110番」が問題になりましたが、イタズラ多発が続くと命の絆である110番までもが誰も助けに来ない船の遭難通信システムのようになりかねないかも。


上陸時の食事

上陸中の楽しみのひとつが食事です。でもメニューがまったくわからないと大〜変。船が着くところは観光とかけ離れたマイナーなところが多いため、コミュニケーションに苦労してなかなか食事にありつけません。最後の手段は「隣のテーブルと一緒でお願い!」。


現地通貨を手にするまでの苦労

上陸してまず必要なのが現地通貨です。発展途上国を中心に米ドルが使用できる国もありますが、欧州各国(ユーロ移行後はラクでしょうね)や韓国、台湾など経済水準が高い国では現地通貨が必要不可欠です。そこで大変なのが短い上陸時間での両替作業です。タクシーは現地通貨しか受け付けないことが多いため、まず市街地まで米ドルか日本円で行けるタクシー会社探しから始まります。運良く荷役作業員や代理店のクルマに乗せてもらえればラッキーですが、自由時間の都合からそう上手くゆきません。やっとのことでタクシーを呼び、市街地に出たら第2の関門「銀行」が待っています。両替の際に上陸許可証が認められずにパスポートが必要だったり、記入シートの内容が現地語で理解不可能だったりと苦労させられます。また治安の悪い国の銀行は警備が物々しく、入るだけでも気合いがいります。ケニアの銀行は両替所が電話ボックスのように1人づつ隔離されており、背後ではAK-47機関銃を持った警備員が待機、カメラなんて取り出そうもんなら銃殺されそうな雰囲気でした。ところでATMで現地通貨も引き出せるクレジットカードは非常に重宝するのですが発展途上国の小売店では手作業のところも多く、不正されたら大損害を被る恐れがあるため注意が必要です。因みに私はインドで高額商品購入の際に思い切ってクレジットカードを使いましたが、臆病な私はスキミング(カード番号を不正に読みとること)を恐れてカードリーダーに不正がないか店員に嫌がられるほど入念にチェックしました(分解したいのでドライバーを貸して欲しいと言ったけれどダメでした)。

近代化船の登場と廃止

日本人船のコスト競争力回復のため、昭和55年(1980年)頃より1船あたりの乗組員数を減らす試みが官労使一体でプロジェクト化されました。これらは<近代化船>または<パイオニア・シップ>と呼ばれて数々の自動化機器の採用がすすめられ、最盛期には乗組員
か11名という超大型タンカーも出現しました。近代化船は一定の成功を収めましたが混乗船のコストには到底かなわず、加えて乗組員不足から生じる整備上の問題と過労問題が発生したため平成11年(1998年)に廃止が決定されました。こうして日本の船会社は賃金の高い日本人船員を船乗りとしてだけでなく海運技術者として採用する傾向を強め、陸上での船舶管理を実行できる能力を要求するようになり、これらの知識を養う場として乗船勤務させるようになりました。


意外に多い転勤

陸上勤務中に与えられる社宅も乗船勤務中にはどの船会社も与えていないのが現状です。個人差はありますが、日本の外航船会社ではだいたい数年間の船乗り生活と数年間の陸上勤務を交互に行っているのが普通です。そのため数年間の陸上勤務を社宅で送り海上勤務に移行した際、持ち家がなければ転勤を余儀なくされます(但し正規家賃を払えば社宅を利用できます)。また陸上勤務では他のサラリーマン同様、本社のみならず全国各地の支店や子会社への派遣もあるため船乗りといえども転勤が多いのが事実です。


その他
・海にポイ!。知られざるゴミのゆくえ
・ある日突然、食料がカラッポ。フィリピン人コックの管理能力
・2等航海士の1日
・海賊よけのカカシ
などなど