ヘルニア近況と幼い誓い

まだ完治はしていないが、日常生活には影響しない程度まで回復した。

間欠跛行という、何十メートルか歩くたびに休みを必要とする症状が治まったのが何よりも大きい。

後は左膝の痛みとモモのはり、そして脛のしびれが取れれば完璧だが、それらは現状でも軽い症状だ。

ここまでの回復で何が一番嬉しいかというと、外出に覚悟がいらなくなったこと。

家は駅から徒歩三分の場所に位置するが、外出時の帰り道、その距離は痛みと間欠跛行の中で永遠と化す。

分かりやすく説明しよう。

諸君も幼き頃、経験があるだろう。小学校からの帰り道、下腹に軽い違和感を感じたことが。しばらくして、重みと温もりが増す中で、諸君は便意を悟る。気づかなかったフリをして家路をいそぐ諸君の努力にもかかわらず、一筋の冷汗が垂れ、腹が容赦なく冷えはじめる。もう限界はすぐそこだ。

家は遥か彼方にある。そこにたどり着くための時間と、我慢できる時間の差の計算は絶望しか生まない。それでも諸君は諦めない。道央の白破線一つ分を目標に、それができたら次の一つ分を目標に歩く。四つ越えると電柱一区間分だ。遠くを見ては生きていけない。次の電柱が今度の目標だ。そのためにまた白線を一つ分歩く。アリのように、芋虫のようにただ這い歩く。気付いてはいけない。家までは電柱何区間分だろうか。それは永遠の距離だ。

……。
諸君、何の僥倖か、それでもいつしか諸君は家の扉を開いた!あとは何も考えない。ズボンを脱ぐ時だけ少し慎重に、あとは脱兎のように。諸君の下腹部が快哉を叫ぶ。神も照覧あれ、私の成し遂げた奇跡を!

それから少しして諸君はふっと胆を冷やす。

奇跡?確かにその通りだ。何でたどり着けたのか私には分からない。次は決して助からないだろう。ホントにホントに私はラッキーだった。せっかく助かった命を無駄にしてはならない。今後は二度と下校前のウンコチェックを怠るまい。

こうして幼い魂は初めての誓いを立てる。


さて、話を戻そう。
この二、三ヶ月、私が外出の度に覚悟していたのはこの下校時の便意である。今や誰も、最近の私の最大の幸せが「<下校時の便意>の覚悟の不要」であることに異を唱える者はあるまい。